第1章:育成就労制度が生まれた背景
1. 技能実習制度からの「発展的解消」
これまで日本には「技能実習制度」がありました。この制度は「日本で学んだ技術を母国に持ち帰り、広める(国際貢献)」という建前を持っていました。しかし、現実には多くの現場で人手不足を補うための労働力として期待されており、制度の目的と実態に大きなズレ(乖離)が生じていました。
また、外国人が職場を自由に変えられないといった権利保護の面でも課題が指摘されてきました。そこで、これらの課題を解決し、「人材育成」と「人材確保」を正面から掲げる新しい仕組みとして「育成就労制度」が創設されました。
2. 「選ばれる国」を目指して
世界中で人材獲得競争が激しくなる中、日本が外国人にとって魅力的な場所であり続ける必要があります。育成就労制度は、外国人が日本でキャリアアップできる道筋を分かりやすく示し、日本を「選ばれる国」にするという強い目的を持って作られています。
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第2章:制度の全体像とスケジュール
1. 運用開始時期
育成就労制度は、2027年(令和9年)4月1日から正式に運用が始まります。 なお、その準備として、2026年(令和8年)度からは受け入れ企業のサポートを行う「監理支援機関」の許可申請や、個別の「育成就労計画」の認定申請が始まる予定です。
2. キャリアアップの3ステップ
この制度の最大の特徴は、将来の「特定技能」制度との強い連携にあります。外国人は以下のステップで日本でのキャリアを積み上げます。
• ステップ①:育成就労(原則3年間) 未経験からスタートし、3年間の就労を通じて「特定技能1号」レベルのプロを目指します。
• ステップ②:特定技能1号(原則5年間) 育成就労を修了し、試験(技能・日本語)に合格することで移行できます。相当程度の知識や経験を持つ「即戦力」としての段階です。
• ステップ③:特定技能2号(期間制限なし) さらに熟練した技能を持つ段階です。在留期間の制限がなくなり、家族を日本へ呼ぶことも可能になります。
このように、**「3年で育てて、その後の5年、さらにその先へ」**という明確なルートが示されています。
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第3章:育成就労制度の具体的な仕組み
1. 誰を受け入れるのか?(対象者と分野)
育成就労制度で外国人が働けるのは、日本人が不足している**「育成就労産業分野」**(特定産業分野の中で、育成に適していると認められた分野)に限られます。
入国時点では、高い専門スキルは求められませんが、「日本語能力A1相当以上」(基本的な表現の理解)の試験合格、または100時間以上の講習受講が条件となります。
2. 何を目標に働くのか?
外国人はただ働くだけではなく、3年後の目標に向けてスキルを磨きます。具体的な目標は以下の2つです。
• 技能目標: 技能検定3級や特定技能1号評価試験への合格。
• 日本語目標: 「日本語能力A2相当以上」(日常会話レベル)への合格。
3. 「育成就労計画」による管理
受け入れ企業(育成就労実施者)は、外国人一人ひとりに対し、3年間の育成方針をまとめた**「育成就労計画」**を作成します。 この計画には、業務内容や習得すべき技能、日本語学習の予定などが細かく記載され、専門機関である「外国人育成就労機構」の認定を受ける必要があります。
育成の一貫性を保つため、原則として3年間で「主たる技能」を身に付けます。この「必須業務」には、全体の就労時間の3分の1以上従事することがルールとなっています。
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第4章:新制度で大きく変わる「転籍(転職)」
皆さんが最も注目すべき点は、**「本人意向による転籍(職場変更)」**が認められるようになったことです。
1. 転籍の条件
以前の制度では原則不可だった職場変更が、以下の条件を満たせば可能になります。
• 期間: 同じ会社で一定期間(分野によりますが、1年〜2年の範囲内)働いていること。
• 能力: 一定の技能レベルと日本語能力(A1相当以上)に合格していること。
• 手続き: 民間の紹介会社を使わず、ハローワークや監理支援機関を通じて手続きを行うこと。
• 受け入れ先: 転籍先の企業が、適切に育成を行える「優良な企業」であること。
2. 地域を守るためのルール(指定区域)
外国人が大都市圏だけに集中し、地方がさらに人手不足にならないよう、**「指定区域」**という配慮もなされています。 東京都や大阪府などの大都市以外の地域(道県など)を指定区域とし、そこで優良な企業が外国人を受け入れる場合には、受け入れ可能な人数枠が拡大されるなどの仕組みが導入されます。
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第5章:日本語能力の重要性
この制度では、コミュニケーションを円滑にするため、日本語能力が非常に重視されています。
1. レベルの目安(日本語教育の参照枠)
制度では「日本語教育の参照枠(CEFR準拠)」という基準が使われます。
• A1レベル(入国・開始時): 「検品・袋詰め」「収穫」「清掃」など、上司や同僚から簡単な指示を受けて行う単独業務が可能なレベルです。
• A2レベル(3年後の目標): 「商品陳列」「限定的な調理」など、定型的なやり取りで実施可能な業務ができるレベルです。
• B1レベル(特定技能2号への道): 「接客」「介護」「高度な調理」など、状況に応じて柔軟に対応できる自立した言語使用者のレベルです。
2. 学習のサポート
受け入れ企業は、外国人が日本語講習(A2目標など)を受けられるよう機会を提供する義務があります。講習は認定された日本語教育機関などで100時間以上受講することが想定されています。
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第6章:外国人を守るための組織とルール
1. 監理支援機関
従来の「監理団体」を厳格化した組織です。 受け入れ企業が正しく育成を行っているかを監査・指導したり、外国人の相談に乗ったりします。外部監査人の設置が義務付けられるなど、チェック機能が大幅に強化されています。
2. 費用の負担(不当な借金の防止)
外国人が多額の借金を背負って来日し、失踪してしまうことを防ぐため、費用の仕組みも新しくなりました。 外国人が母国の送り出し機関に支払う手数料には上限(月給の2か月分まで)が設けられます。これを超える費用や、日本語講習などの初期費用は、原則として日本の受け入れ企業や監理支援機関が負担することになります。
もし、本人の意向で転籍(転職)が発生した場合には、新しい会社が元の会社に対して初期費用の一部を支払う(補填する)仕組みも導入されます。
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第7章:技能実習生からの切り替え(経過措置)
現在、皆さんの職場で働いている「技能実習生」はどうなるのでしょうか?
• 現在の実習生: 原則として、認定されている計画の通りに最後まで技能実習を続けることができます。
• 移行のルール: 2027年4月1日の時点で現に技能実習を行っている「1号」の方は、そのまま「2号」へ移行することが可能です。また、「2号」を1年以上行っている方は「3号」への移行も可能です。
• 特定技能への道: 育成就労制度が始まっても、当分の間は技能実習を良好に修了した人は、試験なしで「特定技能1号」へ移行できるルートが残されます。
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第8章:新入社員の皆さんに心がけてほしいこと
皆さんの職場で働く外国人は、単なる「お手伝い」ではありません。将来、皆さんと肩を並べてリーダーシップを発揮する可能性を秘めた**「キャリアアップを目指す大切な仲間」**です。
• 共に育つ姿勢: 彼らが「3年でプロ(特定技能1号)」になれるよう、皆さんも自身の仕事を教え、共に学ぶ姿勢が大切です。
• 文化と権利の尊重: 彼らは適切な保護(転籍の権利、出産・育児の権利など)を受けられる労働者です。もし困っている様子があれば、会社の窓口や監理支援機関に相談できるようサポートしてあげてください。
• 分かりやすい日本語: A1やA2レベルの方は、ゆっくりはっきり話せば理解できます。相手が理解しやすい言葉遣いを心がけることが、円滑なコミュニケーションの第一歩です。
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【まとめの例え話:RPGの育成クエスト】 この「育成就労制度」をロールプレイングゲーム(RPG)に例えると、以下のように整理できます。
• プレイヤー: 日本に来る外国人の皆さん。
• 最初のミッション(育成就労): 「見習い戦士」として3年間の修行に出るクエストです。ここでは、基本的な戦い方(仕事)と現地の言葉(日本語)を学びます。
• ジョブチェンジ(特定技能1号): 修行を終えて試験に合格すると、晴れて「一人前の戦士」に昇格します。ここからは、より重要な任務を任されます。
• 最終目標(特定技能2号): 卓越した技を極めれば、伝説の「マスター騎士」になれます。家族(パーティ)を呼び寄せ、永住権という最強の装備を手に入れることも可能です。
• ギルド(監理支援機関・企業): プレイヤーが不当な扱いを受けないよう見守り、正しい修行プランを授ける役割です。もし修行先が自分に合わなければ、一定のレベルに達していれば別のギルドへ移ることもできます。
以前は「修行が終わったら自分の村に帰る」という期限付きのゲームでしたが、これからは**「この国で、皆と一緒にベテランとして長く冒険を続けよう」**という壮大な物語(キャリア)に変わったのです。
皆さんがこの新しい物語の良き「先輩キャラクター」として、彼らを温かく迎え入れることを期待しています。


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