特定技能制度とは何か
「特定技能(とくていぎのう)制度」は、2019年に新設された外国人労働者受入れのための在留資格(いわゆるビザ)です。人手不足が深刻な特定産業分野において、一定の専門知識・技能を持つ外国人が働けるようにすることを目的としています。特定技能には 1号(一期)と 2号(二期)の区分があり、1号は最長5年間の在留が可能で家族帯同は認められませんが、2号になると在留期間の上限がなく家族(配偶者・子)の帯同も可能になります。自動車整備分野はこの特定技能制度の対象14分野(※2025年現在)の一つに指定されています。
自動車整備分野が対象となった背景
日本の自動車整備業界では、少子高齢化などに伴い若手人材の不足が深刻化しています。整備士の高齢化や就業者減少により、国内人材だけでは需要を満たせない状況が続いており、業界存続の危機感があります。政府の推計では、今後5年間で約1万3千人規模の整備人材が不足すると見込まれており、この人手不足に対応するため特定技能で最大7,000人の外国人材を受け入れる計画が立てられました。外国人の即戦力となる技能者を受け入れることで、自動車整備業の存続・発展を図り、日本の社会・経済基盤を支える狙いがあります。こうした背景から、自動車整備分野は特定技能制度による外国人受入れ対象に選ばれたのです。
特定技能(自動車整備)で認められる業務内容
特定技能ビザで来日した外国人は、日本人の自動車整備士とほぼ同様の業務に従事できます。その内容は法律で定められており、特に次のような整備作業が認められています:
- 日常点検整備:車両の日常的な点検・整備を行います。例えば、オイルや冷却水の量、ライトやブレーキの動作確認など、日々または定期的に行う基本的な点検作業です。
- 定期点検整備:法令で義務付けられた定期点検(車検や12か月点検など)を実施します。車両を安全に運行するために、所定の時期にブレーキやエンジンなど各部をチェックし、必要な整備・調整を行う業務です。
- 分解整備:車の重要な部品を分解して行う本格的な整備作業です。ブレーキ、エンジン、変速機など安全走行にかかわる装置を分解・点検・整備する作業が含まれます(こうした作業は有資格者である自動車整備士でないと行えません)。
補足: 上記は特定技能1号の外国人が従事できる業務範囲です。さらに高度な特定技能2号になると、電子制御装置の調整等を含む「特定整備」などのより専門的な作業や、他の整備士への指導を行いながら業務に当たることも想定されています。ただし2号に移行できるのは十分な実務経験を積み試験等に合格した熟練者のみです(後述)。
求められる技能水準と試験
特定技能1号(自動車整備)として外国人を受け入れるためには、一定の技能レベルと日本語能力を満たすことが条件です。具体的には、以下の試験等に合格している必要があります:
- 技能試験:国が定める「自動車整備分野特定技能評価試験」に合格すること。または、日本の国家資格である「自動車整備士技能検定試験3級」(三級自動車整備士)に合格していることでも代替可能です。いずれも、自動車整備の基本的な知識・技能を有するかを確認するものです。
- 日本語試験:日常会話や業務指示の理解ができる日本語能力が求められます。具体的には、「国際交流基金日本語基礎テスト (JFT-Basic)」または日本語能力試験N4以上に合格していることが条件です。これは職場や生活で支障なくコミュニケーションできる基礎的な日本語力を意味します。
※一方、技能実習2号(自動車整備職種)を良好に修了した外国人については、上記の技能試験および日本語試験が免除されます。すなわち、自動車整備分野で2年間の技能実習を終えた人材であれば、試験を受けなくても特定技能1号に移行することが可能です。技能実習で培った知識・技術が特定技能で求められる水準を満たしていると見なされるためです。
また、特定技能には**2号(特定技能2号)**へのキャリアパスも用意されています。特定技能1号として一定年数働いた外国人は、経験を積んでより高度な試験に合格すれば2号への移行が可能です。自動車整備分野で特定技能2号になるための主な要件は以下のとおりです:
- 実務経験:認証工場(地方運輸局長の認証を受けた自動車整備事業場)で3年以上の整備実務経験があること。実務を通じて高度な整備技能を身につけていることが求められます。
- 技能試験:上位レベルの「自動車整備分野特定技能2号評価試験」に合格すること、または国家資格の「自動車整備士検定2級」を取得していること。特定技能2号ではより熟練した技能水準(例えばエンジン全体の整備や高度な故障診断等)が求められるため、試験難易度も1号より高く設定されています。
特定技能2号の資格を得ると、在留期間の制限がなくなり(更新を続ければ長期滞在可能)、家族の帯同も認められるようになります。企業にとっても、優秀な外国人整備士を長期的に戦力として定着させられるメリットがあります。
受け入れ企業側の条件と注意点
外国人を特定技能(自動車整備分野)で受け入れる企業・事業所には、一定の条件や遵守事項が課せられています。主なポイントは次のとおりです:
- 認証工場であること:受け入れ企業(特定技能所属機関)は、道路運送車両法第78条第1項に基づく「地方運輸局長の認証を受けた自動車整備事業場」(いわゆる認証工場)でなければなりません。認証を受けた工場でない一般整備工場は特定技能外国人を雇用できません。これは、特定技能で従事する「分解整備」等の作業が法的に認証工場でしか行えないためです。
- 協議会への加入:受け入れ企業は、国土交通省が設置する「自動車整備分野特定技能協議会」に加入し、その構成員となる必要があります。協議会への加入後は、業界全体での情報共有や課題対応に協力し、適正な制度運用に寄与することが求められます。協議会への入会自体に費用はかかりませんが、入管申請時に構成員であることを証明する書類の提出などが必要です。
- 行政への協力義務:特定技能所属機関(受け入れ企業)は、国土交通省またはその委託先が行う調査・指導に対して協力しなければなりません。具体的には、雇用状況の報告や必要な資料提供、聞き取り調査への対応などを適切に行う義務があります。受け入れ企業には法令遵守と適正な受入れ管理が強く求められます。
- 直接雇用の徹底:特定技能外国人は派遣や請負では受け入れできません。必ず受け入れ企業が直接雇用する契約形態とする必要があります。これは雇用責任の明確化や労働者保護の観点から定められた条件です。派遣会社を通じての労働提供などは認められないので注意してください。
- 不当な待遇禁止:受け入れ企業は日本人従業員と同等以上の報酬を支払うなど、労働関係法令を遵守した適正な雇用条件を提示する必要があります(※この項目は特定技能制度全般の共通ルール)。特定技能だからといって低賃金で働かせたり、違約金を科すような契約を結ぶことは厳に禁じられています。
上記の他にも、受け入れ企業には1号特定技能外国人支援計画(後述)の策定・実施や、必要に応じた入管への各種届出など、多くの責任が伴います。特定技能で外国人を雇用する際は、これらの条件を十分理解した上で受け入れ準備を進めることが重要です。
特定技能外国人への支援計画(サポート)の概要
特定技能1号の外国人を受け入れる企業は、法律に基づき支援計画を作成・実施する義務があります。支援計画とは、来日する外国人労働者が日本で安心して働き生活できるように企業が提供するサポート内容をまとめたものです。具体的には、次に列挙する10項目の支援(「義務的支援」と呼ばれます)を計画し実行しなければなりません:
- 事前ガイダンスの実施 – 来日前に、日本での働き方・暮らし方に関する必要情報を母国語で説明します。労働条件や業務内容、日本の生活ルールなどを事前に理解してもらい、ミスマッチを防ぎます。
- 出入国時の送迎 – 入国時には空港等への出迎えを行い、職場や住居まで安全に案内します。帰国時も空港まで見送りを行います。慣れない土地で不安なく移動できるようサポートするものです。
- 住居確保・生活に必要な契約支援 – 住まい探しを手伝い、必要なら社宅を提供します。また、水道・電気などライフライン契約や携帯電話契約の手続きも支援します。生活の基盤づくりをサポートする措置です。
- 生活オリエンテーションの実施 – 来日後、日本での生活ルールやマナー、ゴミ出しの方法、公共交通の利用方法などについてオリエンテーションを行います。文化の違いによる戸惑いを減らし、地域社会で円滑に生活できるようにするためです。
- 公的手続き等への同行 – 区市町村役場での住民登録、健康保険・年金の加入手続き、銀行口座開設などの各種行政手続きに同行し補助します。言語の不安がある中でも必要な手続きを漏れなく行えるよう支援します。
- 日本語学習の機会提供 – 日本語教育の機会を提供またはあっせんします。日本語教室の紹介や教材の提供、学習時間の確保など、さらなる語学力向上を後押しします。職場でのコミュニケーション円滑化にも資する支援です。
- 相談・苦情への対応 – 労働者が仕事や生活で困ったときに相談できる窓口を設置し、母国語など本人が理解できる言語で適切に対応します。いじめや労働トラブルの相談、生活上の悩みなどに耳を傾け、問題解決に努めます。
- 日本人との交流促進 – 地域の行事や交流イベントへの参加を支援し、日本人住民や職場の同僚とのコミュニケーション機会を作ります。異文化交流を通じて地域社会への溶け込みを促し、孤立を防ぐ目的があります。
- 転職支援(やむを得ない場合) – 企業の都合で人員整理・契約終了となる場合など、特定技能外国人が職を失うケースでは、新たな就職先探しをサポートします。ハローワーク情報の提供や求人紹介等により、本人が引き続き日本で働けるよう支援します。
- 定期的な面談・行政機関への通報 – 定期的に本人と面談し、就労・生活状況を確認します。問題や違反があれば速やかに関係行政機関へ報告・相談します。不正行為の防止と早期発見のための措置です。
以上の支援項目は法律で義務付けられており、企業側が確実に実施しなければなりません。もし受け入れ企業単独でこれら支援体制を整えることが難しい場合は、登録支援機関(国に登録された外部の支援専門機関)に支援業務の一部または全部を委託することも可能です。委託にあたっては、自動車整備分野の場合その登録支援機関が業界の事情に通じていることが重要です。具体的には、登録支援機関側に自動車整備士の有資格者(1級もしくは2級整備士)や5年以上の整備教育経験者を配置していること等が求められています。これは専門分野ならではの配慮で、受け入れ企業は委託先の支援機関がこうした要件を満たしているか事前に確認する必要があります。
支援計画の適切な実施は、外国人材が日本で安心して働き能力を発揮するための土台となります。企業にとっても定着・戦力化の鍵となる部分ですので、単なる義務と捉えず前向きに取り組むことが大切です。必要に応じて行政や協議会のサポートも得ながら、万全の支援体制で外国人整備人材を迎え入れましょう。

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