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漁業特定技能制度の全貌と申請のポイント

こんにちは。今日は、漁業の現場で働く外国人材を受け入れる「特定技能」という制度について、初めて聞く方にも分かるように、丁寧に解説していきます。

目次

そもそも「特定技能」って何?制度が生まれた背景

漁業の世界では、いま深刻な人手不足が起きています。想像してみてください。日本の食卓に魚が届くまでには、海で魚を獲る人、養殖場で魚を育てる人など、多くの働き手が必要です。しかし、高齢化や若者の漁業離れが進み、漁業現場では「働き手が足りない!」という声が年々大きくなっています。

水産庁のデータによると、令和4年度の時点で漁業分野の現場には約12万6,000人が働いていますが、このままでは令和10年度には約10万9,000人まで減少する見込みです。国が目指す水産物の生産目標を達成するには17万人の働き手が必要なので、実に約6万1,000人もの人手が不足することになります。

これは、お店に例えると分かりやすいかもしれません。お客さんがたくさん来ているのに、店員が足りなくてレジが回らない状態です。このままでは、日本の食卓に安定して魚を届けることができなくなってしまいます。

そこで国は、一定の技能を持った外国人材に日本の漁業現場で働いてもらう「特定技能」という制度を2019年4月にスタートさせました。これは、ICT技術の導入や新規就業者の確保などの努力をしてもなお足りない人材を、外国から迎え入れて漁業を守ろうという取り組みなのです。

参照: 漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針

「特定技能1号」と「特定技能2号」の違い

特定技能には、「1号」と「2号」という2つのレベルがあります。これは、スポーツで言えば「初級クラス」と「上級クラス」のようなものです。

特定技能1号:現場で働く即戦力の人材

特定技能1号は、漁業の基本的な作業を一人でこなせる人材です。船長や作業リーダーの指示を理解して、または包括的な指示のもとで自ら判断しながら仕事をします。

具体的な仕事内容は次のようなものです。

【漁業の場合】

  • 漁に使う網やロープなどの道具(漁具)を作ったり修理したりする
  • 魚群探知機を使って魚がいる場所を探す
  • 網を引き上げる機械や自動イカ釣り機などを操作する
  • 魚を獲る作業
  • 獲った魚を氷漬けにしたり、箱に詰めたりする処理作業
  • 安全に作業するための管理

【養殖業の場合】

  • 養殖に使う網や生け簀などの道具を作ったり管理したりする
  • 稚魚にエサをやったり、水温や水質を管理したりして魚を育てる
  • 育った魚を収穫して処理する作業
  • 安全衛生の確保

詳細: ジョブディスクリプション(職務記述書)

特定技能2号:現場を指導・管理できる熟練者

特定技能2号は、さらに上のレベルで、他のスタッフを指導しながら現場を管理できる人材です。船長や経営者を補佐し、作業員に指示を出したり、作業の進行を管理したりします。

1号の仕事に加えて、以下のような管理業務も担当します。

  • 操業を指揮監督する者の補佐
  • 作業員への指導
  • 作業工程の管理

これは、レストランで言えば、料理を作るだけでなく、他の調理スタッフに指示を出したり、キッチン全体の流れを管理したりする「料理長」のような役割と考えると分かりやすいでしょう。

詳細: ジョブディスクリプション(職務記述書)

どんな「付随的な仕事」ができるの?

特定技能外国人は、メインの漁業・養殖業の仕事だけでなく、日本人スタッフが普段やっている関連する仕事にも付随的に従事できます。ただし、「専らそればかり」というのはダメで、あくまで漁業・養殖業がメインであることが条件です。

具体的には、こんな作業が認められています。

【漁業で働く場合】

  • 船の道具や機械の点検・交換
  • 船体の修理や掃除
  • 魚倉や道具置き場の清掃
  • 出漁前に餌や氷、燃料、食料などを船に積み込む
  • 船での食事の準備(炊事・賄い)
  • 獲った魚を生け簀で一時的に飼う(畜養)
  • 自分たちが獲った魚を運んだり、お店に並べたり、販売したりする
  • 自分たちが獲った魚を加工して商品を作り、それを販売する
  • 魚市場で魚を種類ごとに分ける
  • 観光客向けの体験漁業のお手伝い
  • 研修への参加

【養殖業で働く場合】

  • 船や道具の点検・修理・掃除
  • 養殖に使う機械や設備の清掃・消毒・管理
  • 鳥や動物が養殖場の魚を食べないように防護ネットを張ったり追い払ったりする
  • 養殖用の稚魚を獲りに行く
  • 育てた魚を運んだり販売したりする
  • 育てた魚を加工して商品にして販売する
  • 研修への参加

これは、農家さんが野菜を育てるだけでなく、トラクターのメンテナンスをしたり、収穫した野菜を直売所で販売したりするのと同じようなイメージです。

参照: 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領

どうやって特定技能外国人になれるの?必要な試験と条件

特定技能外国人として日本で働くには、一定の技能と日本語能力を証明する必要があります。

特定技能1号の場合

技能試験:

  • 「1号漁業技能測定試験(漁業)」または「1号漁業技能測定試験(養殖業)」に合格すること
  • 試験では、漁具の使い方、魚の獲り方、安全管理の知識などが問われます

日本語試験:

  • 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格すること
  • N4レベルというのは、「基本的な日本語が理解できる」レベルです。日常会話でよく使われる語彙や漢字が読めて、ゆっくり話されれば内容が理解できる程度の能力です。

ただし、技能実習を修了した人は試験免除!

漁業分野の技能実習2号を良好に修了した人は、すでに必要な技能と日本語能力があると認められるため、試験を受けなくても特定技能1号の資格を取得できます。これは、学校で言えば「推薦入学」のようなものですね。

特定技能2号の場合

技能試験:

  • 「2号漁業技能測定試験(漁業)」または「2号漁業技能測定試験(養殖業)」に合格すること

日本語試験:

  • 「日本語能力試験(N3以上)」に合格すること
  • N3レベルは、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」レベルで、1号より高い能力が求められます。

実務経験:
さらに、2号では現場での実務経験が必要です。

  • 漁業の場合: 登録された漁船で、操業を指揮する人を補佐したり、作業員を指導しながら仕事をして、作業工程を管理した経験
  • 養殖業の場合: 養殖現場で、養殖を管理する人を補佐したり、作業員を指導しながら仕事をして、作業工程を管理した経験

これは、運転免許で言えば「大型免許」のようなもので、より高度な技能と経験が求められるのです。

参照: 漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針

受け入れる企業や漁協が守るべきルール

特定技能外国人を受け入れる企業や漁協(受入れ機関)には、いくつかの重要な条件が課せられています。

1. 「漁業特定技能協議会」への加入が必須

受け入れ機関は、水産庁が設置する「漁業特定技能協議会」に加入しなければなりません。これは、令和6年6月15日以降、初めて特定技能外国人を受け入れる場合、在留資格の申請前に加入する必要があります。

この協議会は、特定技能制度が適正に運用されているかをチェックしたり、受入れ機関同士が情報交換したりする場です。協議会からの調査や資料提出の要請には、きちんと協力することが求められます。

詳細: 漁業特定技能協議会

2. 派遣事業者には制限がある

特定技能外国人は、直接雇用だけでなく、労働者派遣の形態でも受け入れることができます。ただし、派遣事業者は誰でもいいわけではなく、地方公共団体、漁業協同組合、漁業生産組合、漁業協同組合連合会など、漁業に関連する組織が関与している事業者に限定されています。

これは、漁業には繁忙期と閑散期があり、地域内で労働力を融通し合う必要があるためです。例えば、夏はカツオ漁で忙しいけれど、冬は別の魚種の漁に人手が必要、といった具合に、地域全体で効率的に人材を活用できるようにする仕組みです。

3. 労働条件の適切な管理

漁業や養殖業は、労働基準法の労働時間・休憩・休日に関する規定が適用除外になっています。しかし、だからといって無制限に働かせていいわけではありません。

特定技能外国人が健康で文化的な生活を送り、長期間にわたって働けるように、労働基準法の基準も参考にしながら、適切に労働時間を管理し、適切な休憩と休日を設定することが求められています。これは、外国人材が過重労働で体を壊さないように守るための配慮です。

また、深夜勤務の割増賃金など、他の労働基準法の規定は通常通り適用されますので、注意が必要です。

4. 登録支援機関への委託条件

特定技能1号の外国人には、日本での生活をサポートする「支援計画」を実施する必要があります。この支援を外部の「登録支援機関」に委託する場合、漁業分野に固有の基準に適合している登録支援機関に限定されています。

5. 実務経験証明書の交付

受入れ機関は、特定技能外国人から求めがあれば、実務経験を証明する書面を交付しなければなりません。これは、将来その外国人が特定技能2号に進むときなどに必要になる大切な書類です。

参照: 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領

どのくらいの人数を受け入れる予定?

漁業分野では、令和6年度からの5年間で最大1万7,000人の特定技能1号外国人を受け入れる計画です。

これは、先ほど述べた6万1,000人の人手不足に対して、生産性向上の取り組み(ICT技術の活用など)で約3万6,000人分、新規就業者の確保で約8,000人分を補った上で、それでもなお不足する人数を特定技能外国人で補うという計算です。

ただし、この数字はあくまで上限です。もし、十分な人材が確保できたと判断されれば、一時的に受け入れを停止することもあります。逆に、まだ人手不足が続いていれば、再開されます。

参照: 漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針

地域に偏らない受け入れのための工夫

特定技能外国人が都市部にばかり集中してしまうと、地方の漁村では人手不足が解消されません。そこで、水産庁は以下のような対策を行っています。

1. 漁村地域への支援
漁業協同組合など、地域の核となる組織が外国人材を受け入れやすいように、必要な支援を行っています。

2. 漁業を魅力的な産業に
漁船の安全性や居住性を高めたり、漁村での地域活動を支援したりして、漁業を「やりがいのある仕事」にする取り組みを進めています。

3. 柔軟な業務範囲の設定
漁業には季節性があり、年間を通じて同じ作業があるわけではありません。そこで、特定技能外国人が従事できる「漁業関連業務」の範囲を柔軟に設定し、閑散期でも別の関連作業に従事できるようにしています。

これは、冬にスキー場で働く人が、夏は同じリゾート地のホテルで働くようなイメージです。地域全体で外国人材を活用できるようにすることで、地方の漁村でも安定して人材を確保できる仕組みを目指しています。

参照: 漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針

試験について知りたい方へ

漁業技能測定試験の詳細については、一般社団法人大日本水産会のウェブサイトで確認できます。

漁業技能測定試験の詳細(大日本水産会)

試験は、漁業と養殖業でそれぞれ分かれており、実技試験と学科試験が行われます。

まとめ:特定技能制度は漁業の未来を守る仕組み

日本の漁業は、深刻な人手不足に直面しています。特定技能制度は、一定の技能を持った外国人材を受け入れることで、日本の食卓に魚を安定して届け、漁業という産業を守るための制度です。

制度には「特定技能1号(即戦力)」と「特定技能2号(熟練者)」の2つのレベルがあり、それぞれ必要な試験や実務経験が定められています。また、受け入れる企業や漁協には、協議会への加入や適切な労働管理など、いくつかの責任が課せられています。

この制度がしっかりと運用されることで、外国人材が安心して日本の漁業現場で働き、日本の漁業が持続的に発展していくことが期待されています。

漁業に関わる方も、これから関わろうと考えている方も、この制度をよく理解して、日本の「海の恵み」を次世代につなげていきましょう。


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