
こんにちは。今日は、日本の林業分野で外国人の方々に働いてもらうための「特定技能制度」について、詳しく解説していきます。専門用語はできるだけ噛み砕いて説明しますので、初めて聞く方でも安心して読み進めてください。
なぜ今、林業で外国人材が必要なのか?
まず、そもそもなぜ林業分野で外国から働き手を呼ぶ必要があるのでしょうか。その背景を理解することが大切です。
日本の森が「収穫期」を迎えている
日本の森林の約4割は、人が植えて育てた「人工林」です。これらの木々が、いよいよ材木として使える段階まで成長してきました。例えるなら、何十年も育ててきた果樹園の果実が、まさに今、収穫期を迎えているようなものです。
政府は2021年に決めた「森林・林業基本計画」で、木材の供給量を増やしていく方針を打ち出しました。具体的には、2030年(令和12年)までに4,200万立方メートルの木材を供給することを目標としています。また、花粉症対策としても、スギやヒノキを伐採して花粉の少ない品種に植え替える必要があり、林業の生産性向上と労働力確保が重要な課題となっています。
深刻な人手不足の実態
しかし、現実は厳しいものがあります。林業で働く人の数は、2010年には5万1,000人いましたが、2020年には4万4,000人まで減少しました。たった10年間で14%も減っているのです。2022年度の林業分野の有効求人倍率は2.35倍——つまり、働き手を1人募集すると、2.35件の求人がある状況です。
さらに問題なのは、山村地域の高齢化です。全国平均の高齢化率が28.0%であるのに対し、山村地域では40.6%にも達しています。山村では全国を超えるペースで人口減少が進んでおり、地元だけで人材を確保することがますます困難になっているのです。
具体的にはどれくらい人が足りないのか?
2028年度(令和10年度)時点を想定すると、木材供給の目標を達成するためには約5万8,000人の働き手が必要と試算されています。しかし、現在の状況が続けば、約2万人もの人手が足りなくなる見込みです。
もちろん、日本政府も手をこまねいているわけではありません。「緑の雇用」事業という取り組みで、毎年約3,000人の方々が林業の世界に飛び込んでいます。また、機械化を進めて生産性を上げる努力も続けています。実際、この10年間で林業の生産性は約3割向上しました。
それでもなお、約1,000人分の働き手が不足すると見込まれています。この穴を埋めるために、外国人材の力を借りることになったのです。
「特定技能」って何?
さて、ここからが本題です。外国人の方々を林業分野で受け入れるための制度が「特定技能」という仕組みです。これを家族に例えてみましょう。
特定技能制度の基本的な考え方
特定技能制度とは、すでに基本的な知識や技能を持っている外国人の方を「即戦力」として受け入れる制度です。まったくの初心者を一から育てるのではなく、すでにある程度できる人に来てもらって、すぐに仕事を手伝ってもらう——そんなイメージです。
この制度には「1号」と「2号」がありますが、林業分野では**「特定技能1号」のみ**が認められています。1号は、「相当程度の知識または経験を必要とする技能」を持つ人が対象です。
どんな仕事をするのか?
林業分野の特定技能外国人が従事する主な業務は以下の通りです:
主な仕事(メインの業務)
- 育林作業: 木を植えたり、雑草を取ったり、間伐(木々の間隔を調整するために一部を切ること)をしたりする仕事
- 素材生産作業: 木を伐採して、丸太にする仕事
これらの作業は、林業の核となる部分です。外国人材には、これらの基本的な技能をしっかり身につけた上で、現場の状況に応じて作業の手順を自分で考えながら働いてもらいます。
関連する仕事(付随的な業務)
メインの仕事に加えて、日本人の林業従事者が普段やっている関連作業にも携わることができます。例えば:
- 林業で出た材料を使って、林の中で製品を作ったり加工したりする作業
- 樹皮やつるなどの副産物を使った製造・加工作業
- 機械や道具の手入れ・管理
- 資材の管理や運搬
- 作業場所の清掃
- 冬季の除雪作業
- 事務作業
ただし、これらの関連業務だけをずっと続けることは認められていません。あくまで、育林や素材生産といったメインの仕事が中心でなければならないのです。
外国人材に求められる条件
では、どんな外国人の方なら林業分野で働けるのでしょうか?大きく分けて2つの条件があります。
1. 技能水準——「林業技能測定試験」に合格すること
林業分野で働くためには、**「林業技能測定試験」**という試験に合格する必要があります。これは、林業に関する基本的な知識と技能を持っているかどうかを確認するための試験です。
試験は「一般社団法人 林業技能向上センター」という組織が実施しています。具体的な試験日程や申し込み方法などは、この組織のウェブサイトで確認できます。
ただし、例外があります。すでに日本で「技能実習2号」を修了している方は、この試験が免除されます。技能実習とは、日本の技術を学んで母国の発展に役立ててもらう制度ですが、そこで林業の経験を積んだ方は、すでに十分な技能を持っているとみなされるのです。
2. 日本語能力——日常会話ができるレベル
日本で働くには、日常生活や仕事で必要な日本語能力も求められます。具体的には、以下のいずれかの試験に合格する必要があります:
- 国際交流基金日本語基礎テスト: 基本的な日本語能力を測る試験
- 日本語能力試験(N4以上): 多くの方がご存知のJLPT(Japanese Language Proficiency Test)のN4レベル以上
N4レベルとは、「基本的な日本語を理解できる」レベルです。例えば、日常的な場面でゆっくり話されれば会話の内容がほぼ理解できる、やさしい日本語で書かれた文章を読んで理解できる——そんなレベルをイメージしてください。
こちらも例外があります。技能実習2号を修了した方は、職種に関係なく日本語試験が免除されます。約3年間日本で生活した経験があれば、日常会話に支障がないだけの日本語力があるとみなされるためです。
受け入れる企業に求められること
外国人材を受け入れる企業(特定技能所属機関と呼ばれます)にも、いくつかの重要な義務があります。
1. 雇用形態は「直接雇用」のみ
林業分野では、派遣労働は認められていません。つまり、派遣会社を通して外国人材を受け入れることはできず、企業が直接雇用契約を結ぶ必要があります。これは、労働者の権利をしっかり守り、適切な労働環境を確保するための措置です。
2. 「林業特定技能協議会」への加入が必須
外国人材を受け入れる企業は、農林水産省が設置する**「林業特定技能協議会」**に必ず加入しなければなりません。この協議会は、外国人材の適正な受入れと保護を図るための組織です。
協議会での役割は以下の通りです:
- 協議会の構成員として、必要な情報提供や調査に協力する
- 協議会で決まった措置を適切に実施する
- 農林水産省や委託を受けた機関が行う調査や指導に協力する
もし協議会に加入しなかったり、協力を怠ったりすると、外国人材を受け入れることができなくなります。
3. 登録支援機関に委託する場合の条件
企業が外国人材のサポート業務を「登録支援機関」という専門機関に委託する場合もあります。登録支援機関とは、外国人の生活相談や日本語学習の支援などを行う組織です。
もし全面的に委託する場合は、その登録支援機関も協議会や農林水産省に協力する姿勢を持っている機関を選ばなければなりません。
受け入れ人数の上限
無制限に受け入れるわけではありません。林業分野では、2024年度から2028年度までの5年間で、最大1,000人という上限が設定されています。
この数字は、先ほど説明した2万人の不足見込みから、生産性向上で約1万5,000人分、国内人材確保策で約4,000人分をカバーした後に残る、どうしても足りない人数として算出されたものです。
外国人材を守るための仕組み
外国人材が安心して働けるよう、様々な保護措置も設けられています。
1. 適正な労働条件の確保
受け入れ企業は、労働基準法などの労働関係法令をきちんと守らなければなりません。外国人だからといって、日本人より悪い条件で働かせることは許されません。給与や労働時間、休日などは、同じ仕事をする日本人と同等以上でなければならないのです。
2. 支援計画の実施
企業は、「1号特定技能外国人支援計画」というものを作成し、実施する義務があります。これは、外国人が日本での生活や仕事に困らないよう、様々なサポートを行う計画です。具体的には:
- 日本への入国時の空港への出迎え
- 住居の確保の手伝い
- 生活に必要な契約(携帯電話、銀行口座など)のサポート
- 日本の生活ルールやマナーの説明
- 日本語学習の機会提供
- 相談や苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 定期的な面談
これらの支援を自社で行うのが難しい場合は、登録支援機関に委託することもできます。
3. 治安への配慮
農林水産省は、治安上の問題が生じないよう、必要な措置を講じることになっています。もし深刻な治安上の影響が懸念される場合には、関係機関と協力して対応し、必要であれば制度の運用方針を変更することもあります。
地域への配慮
外国人材が大都市圏など特定の地域に集中しないよう、農林水産省は様々な取り組みを行います:
- 制度の趣旨や成功事例を全国に広く周知する
- 協議会を通じて、外国人が不足している地域の状況や課題を把握し、対応策を検討する
- 林業を魅力的な産業にするための施策を推進し、山村地域の維持・発展を図る
外国人材が、本当に必要としている地域で活躍できるよう、バランスの取れた配置を目指しているのです。
受入れの停止と再開
状況によっては、一時的に新しい外国人材の受入れを停止することもあります。
停止の条件
- 5年間で1,000人という上限に達しそうな場合
- 有効求人倍率などの客観的な指標を見て、人手不足が解消されたと判断される場合
このような場合、農林水産大臣が法務大臣に対して、在留資格認定証明書(外国人が日本で働くために必要な書類)の交付を一時停止するよう求めます。
再開の条件
停止措置を講じた後、再び人材不足が生じた場合には、農林水産大臣が法務大臣に対して受入れ再開を求めることができます。状況に応じて柔軟に対応できる仕組みになっているのです。
その他の関連制度:技能実習制度と育成就労制度
特定技能制度とは別に、林業分野には他にも外国人材を受け入れる制度があります。
技能実習制度
「技能実習制度」は、発展途上国などへの技術移転を通じて国際貢献を行うことを目的とした制度です。2024年9月30日に「林業職種」が技能実習2号・3号への移行対象に追加されました。
この制度の目的は、日本で培われた技術を学んでもらい、母国の経済発展に役立ててもらうことです。特定技能制度とは目的が異なりますが、技能実習2号を修了した方は、特定技能の試験が免除されるため、そのまま日本で働き続けることができます。
育成就労制度(2027年4月開始予定)
2027年(令和9年)4月1日からは、新たに「育成就労制度」が始まる予定です。これは、「相当程度の知識または経験を必要とする技能を有する人材を育成・確保する」ための制度で、技能実習制度を発展させたものです。
技能実習制度から育成就労制度への移行時には、すでに実習中の方は引き続き実習を続けられるなどの経過措置が設けられています。
安全衛生への取り組み
林業は危険を伴う仕事です。チェーンソーや大型機械を使い、急斜面で作業することも多くあります。そのため、外国人材の安全確保には特別な配慮が必要です。
受け入れ企業には以下のような対応が求められます:
- 外国人労働者向けの安全衛生教育の実施
- 母国語または分かりやすい日本語での作業指示
- 熱中症対策(外国語版のポスターなども用意されています)
- 適切な保護具の提供と使用の徹底
農林水産省告示では、技能実習における林業の特性を踏まえた労働安全対策として、技能実習指導員の上乗せ要件なども定められています。
申請の流れと必要書類
実際に外国人材を受け入れる際には、様々な書類を準備し、手続きを行う必要があります。
主な確認書類
- 林業分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書: 企業が各種条件を守ることを誓約する書類
- 林業特定技能協議会の構成員であることの証明書: 協議会に加入していることを証明する書類
- 林業技能測定試験の合格証明書: 外国人材が試験に合格したことを証明する書類
- 日本語能力を証する書類: 日本語試験の合格証明書(免除される場合を除く)
これらの書類を揃えて、出入国在留管理局に申請を行います。
相談窓口・問い合わせ先
制度について詳しく知りたい場合や、具体的な手続きで分からないことがある場合は、以下に問い合わせることができます。
農林水産省(林野庁)
- 担当: 林政部経営課林業労働・経営対策室 林業人材育成班
- 電話: 03-3502-1629
- ウェブサイト: https://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/gaikoku.html
出入国在留管理庁
在留資格や申請手続きに関する詳細は、法務省の出入国在留管理庁のウェブサイトでも確認できます。
一般社団法人 林業技能向上センター
林業技能測定試験に関する詳細な情報や、技能検定に関する問い合わせはこちらへ。
まとめ:共に支え合う未来へ
日本の林業は今、大きな転換点に立っています。長年育ててきた森林資源を持続可能な形で活用していくために、外国人材の力が必要不可欠になっています。
特定技能制度は、単に人手不足を補うだけの仕組みではありません。外国人の方々が安心して働き、日本での生活を楽しみながら、技能を磨いていける環境を整えることを目指しています。
企業には、適正な労働条件の確保や生活支援など、多くの責任が課されています。一方で、外国人材には、基本的な技能と日本語能力を身につけてもらうことが求められています。お互いに努力し、支え合うことで、日本の林業の未来を一緒に築いていく——それがこの制度の理念なのです。
山村地域の活性化、持続可能な森林管理、そして花粉症対策まで、林業の役割は多岐にわたります。外国人材の力を借りながら、これらの課題に立ち向かっていくことが、日本社会全体にとっても大きな意義を持つのです。
この記事が、林業分野における外国人材受入れ制度の理解の一助となれば幸いです。より詳しい情報や最新の状況については、上記の相談窓口や農林水産省のウェブサイトをご確認ください。
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