1. 名称の変更
変更内容
「事業承継・引継ぎ補助金」から「事業承継・M&A補助金」へと名称が変更されました。
詳細説明
この名称変更には重要な意味があります。「引継ぎ」という言葉は曖昧で、どのような活動が含まれるのか分かりにくい面がありました。一方、「M&A」という言葉を使用することで、この補助金が企業の合併や買収を支援するものであることが明確になりました。
例えば、以前は「事業を引き継ぐ」という表現だけでは、親族への事業承継なのか、従業員への承継なのか、それとも他社への売却なのかが不明確でした。しかし、「M&A」という言葉を使うことで、企業間の取引や統合を支援する制度であることが一目で分かるようになりました。
これにより、M&Aを検討している中小企業経営者や、M&A支援を行う専門家にとって、この補助金制度がより分かりやすくなり、活用しやすくなることが期待されます。
2. PMI推進枠の新設
変更内容
Post Merger Integration(PMI)を支援する新しい枠組みとして「PMI推進枠」が導入されました。
詳細説明
PMIとは、M&A成立後の統合プロセスのことを指します。多くの企業がM&A後の統合に苦労しており、せっかくM&Aを行っても期待した効果が得られないケースが少なくありません。
この新しい枠組みは、以下の2つの類型に分かれています:
- PMI専門家活用類型:
- 補助上限:150万円
- 目的:M&A後の統合プロセスを円滑に進めるため、専門家のアドバイスを受けるための費用を補助します。
- 具体例:組織統合のコンサルティング費用、人事制度の統合に関するアドバイザリー費用など
- 事業統合投資類型:
- 補助上限:800~1,000万円(一定の賃上げを実施する場合)
- 目的:M&A後の事業統合に必要な投資を支援します。
- 具体例:統合後の新しい生産ラインの構築、ITシステムの統合、新ブランドの立ち上げなど
この枠組みの新設により、M&A後の統合プロセスをスムーズに進め、M&Aの成功確率を高めることが期待されます。例えば、製造業のA社がB社を買収した後、両社の生産ラインを統合して効率化を図る際に、この補助金を活用してコンサルタントのアドバイスを受けたり、必要な設備投資を行ったりすることができます。
3. 補助上限額の引き上げ
変更内容
既存の枠組みにおいても補助上限額が引き上げられました。
詳細説明
- 事業承継促進枠(旧経営革新枠):
- 変更前:600万円
- 変更後:800~1,000万円
- 条件:一定の賃上げを実施する場合に1,000万円まで引き上げ
- 専門家活用枠:
- 変更前:600万円
- 変更後:600~800万円
- 特記事項:デューデリジェンス(DD)費用申請の場合、追加で200万円の補助が可能
これらの変更は、より大規模なM&Aや事業承継を支援することを目的としています。例えば、年商10億円の中堅企業が事業承継を機に新規事業に参入する場合、以前の600万円では十分な投資ができませんでしたが、1,000万円まで補助が受けられるようになったことで、より大胆な事業展開が可能になります。
また、専門家活用枠でのDD費用の追加補助は、M&Aの成功率向上に寄与します。DDとは、M&Aの対象企業の財務、法務、業務などを詳細に調査することです。例えば、IT企業がM&Aを検討する際に、対象企業の技術力や知的財産権の詳細な調査を行うことができ、リスクを最小限に抑えたM&Aが可能になります。
4. 補助率の調整
変更内容
補助率が事業者の状況に応じて調整されました。
詳細説明
- 事業承継促進枠:
- 基本補助率:1/2(50%)
- 小規模事業者の場合:2/3(約66.7%)
- 専門家活用枠(買い手支援類型):
- 補助率:2/3(約66.7%)
- 専門家活用枠(売り手支援類型):
- 基本補助率:1/2(50%)
- 条件付き補助率:2/3(約66.7%)
この変更により、より多くの中小企業が補助金を活用しやすくなりました。特に、小規模事業者への配慮が見られます。
例えば、従業員5人の小さな町工場が事業承継を行う場合、600万円の設備投資を計画していたとします。以前の制度では300万円の自己負担が必要でしたが、新制度では200万円の自己負担で済むようになり、より積極的な投資が可能になります。
また、買い手支援類型の補助率が高いのは、M&Aを通じた事業拡大を促進する狙いがあります。例えば、地方の中小企業がM&Aで事業を拡大する際、専門家の助言を受けやすくなり、より戦略的なM&Aが可能になります。
5. 対象となる取り組みの拡大
変更内容
補助金の対象となる取り組みの範囲が拡大されました。
詳細説明
- M&A重視の取り組み強化:
- 買収後の統合プロセス支援
- クロスボーダーM&A(国境を越えたM&A)の支援 例:日本の中小製造業がASEAN諸国の企業を買収する際の、言語や文化の違いに対応するためのコンサルティング費用なども補助対象となります。
- デジタル化・DXの推進:
- 事業承継やM&Aに伴うデジタル化やDX推進の取り組み 例:老舗の和菓子店が事業承継を機に、オンライン注文システムを導入したり、製造プロセスにIoT技術を取り入れたりする際の費用が補助対象となります。
- 人材育成・確保の支援:
- 事業承継やM&A後の人材育成や確保に関する取り組み 例:M&Aで異なる企業文化を持つ従業員を統合するための研修プログラムの費用や、新しい事業展開に必要な専門人材の採用費用なども補助対象となります。
- グループ申請の拡充:
- 複数の中小企業を子会社化し、グループ全体の生産性向上のための投資を行う「グループ申請」が新設または拡充 例:地方の中堅企業が、関連する複数の小規模事業者をM&Aで傘下に収め、グループとしてのシナジー効果を高めるための投資を行う際、グループ全体で一つの申請として補助金を受けられるようになります。
これらの変更により、現代のビジネス環境に即した多様な事業承継やM&Aの形態に対応できるようになりました。特に、デジタル化やグローバル化といった時代の要請に応える取り組みを支援することで、日本の中小企業の競争力強化につながることが期待されます。
まとめ
令和6年度補正予算による事業承継・M&A補助金の変更は、日本の中小企業が直面する様々な課題に対応するものとなっています。名称変更によるM&Aの重要性の明確化、PMI推進枠の新設による統合プロセスの支援、補助上限額の引き上げと補助率の調整による幅広い支援、そして対象となる取り組みの拡大により、より多くの中小企業が時代に即した形で事業承継やM&Aを実施できるようになりました。
これらの変更は、単に資金面での支援を強化するだけでなく、中小企業の持続的な成長と競争力強化を総合的に後押しするものです。新入社員の方々も、この制度の変更が日本経済全体にとって大きな意味を持つことを理解し、自社や取引先の事業承継やM&Aの際には、この補助金制度の活用を検討することが重要です。