5 許可の基準(許可を受けるための要件 経営業務の管理責任者の定義と役割)

建設業

も重要な要件の一つです。この要件の詳細と重要性について、段階を追って説明していきます。

経営業務の管理責任者の定義と役割

経営業務の管理責任者とは、建設業の経営全般を統括し、適正な業務運営を確保する役割を担う人物です。具体的には以下の役割があります:

  • 経営方針の策定と実行
  • 財務管理と資金調達
  • 人事・労務管理
  • 技術者の配置と管理
  • 下請業者との契約管理
  • 法令遵守体制の整備

これらの役割を適切に遂行することで、建設業者の持続可能性と信頼性を確保します。経営業務の管理責任者は、建設業の複雑な特性を理解し、長期的な視点で事業を運営する能力が求められます。

経営業務の管理責任者の要件

経営業務の管理責任者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります:

  1. 建設業に関する5年以上の経営業務の管理責任者としての経験

この要件は、建設業の経営者として5年以上の実績があることを意味します。具体的には:

  • 法人の場合:取締役、執行役、業務を執行する社員など
  • 個人の場合:事業主本人または支配人

経験の内容としては、以下のような業務を総合的に管理していたことが求められます:

  • 建設工事の受注や施工管理
  • 資金調達や財務管理
  • 技術者や技能者の配置
  • 下請業者との契約締結

この経験は、必ずしも連続した5年間である必要はなく、通算で5年以上あれば認められます。

  1. 建設業に関する5年以上の経営業務の管理責任者に準ずる地位での経験

この要件は、取締役会設置会社において、取締役会の決議により特定の事業部門に関して業務執行権限の委譲を受けた者が該当します。例えば:

  • 執行役員として建築部門を5年間統括した経験
  • 常務取締役として土木事業部を5年間管理した経験

この場合、単なる肩書きだけでなく、実質的に経営業務を執行する権限を持っていたことが重要です。

  1. 建設業に関する6年以上の経営業務の管理責任者を補佐する業務の経験

この要件は、経営業務の管理責任者に準ずる地位にあって、経営全般を補佐した経験を指します。具体的には:

  • 工事部長として6年間、社長の経営判断を補佐した経験
  • 総務部長として6年間、経営戦略の立案や実行を支援した経験

この経験には、建設工事の施工に必要な資金調達、技術者の配置、下請業者との契約締結などの業務が含まれます。

新たに導入された要件(令和2年10月1日施行)

令和2年の法改正により、経営業務の管理体制を複数人で構成する場合の新たな要件が追加されました。これは、より柔軟な経営体制を認めるものです。

  1. 常勤役員等の要件:
  • 建設業に関し2年以上の役員等としての経験
  • かつ、5年以上の役員等または役員等に次ぐ地位での経験
  1. 補佐する者の要件:

以下の3つの業務経験を有する者を配置する必要があります:

a) 財務管理の業務経験(5年以上)

  • 建設工事の資金調達
  • 施工中の資金繰り管理
  • 下請業者への支払い管理

b) 労務管理の業務経験(5年以上)

  • 社内や工事現場の勤怠管理
  • 社会保険関係の手続き
  • 労働安全衛生管理

c) 業務運営の業務経験(5年以上)

  • 会社の経営方針策定
  • 運営方針の実施
  • 事業計画の立案と実行

これらの業務経験は、1人が複数の経験を兼ねることも可能です。ただし、これらの経験は建設業を営む者における経験に限られ、他業種での経験は認められません。

経験の証明方法

経営業務の管理責任者の経験を証明するには、以下の方法があります:

  1. 法人の取締役としての経験:
  • 登記簿謄本で証明
  • 解散会社や古い経験の場合は閉鎖登記簿謄本や手書きの謄本が必要
  1. 個人事業主としての経験:
  • 確定申告書、青色申告決算書等の税務書類で証明
  • 建設業許可申請書の工事経歴書で補完
  1. 執行役員等としての経験:
  • 取締役会議事録、辞令書等の社内文書で証明
  • 健康保険被保険者証等で在籍期間を補完

これらの証明書類は、経験の実質的な内容を示すものである必要があります。単なる肩書きだけでなく、実際に経営業務に携わっていたことを示す必要があります。

社会保険加入要件

経営業務の管理責任者は、以下の社会保険加入に関する要件も満たす必要があります:

  1. 健康保険法に規定する適用事業所に該当する全ての営業所について、健康保険法施行規則の規定による届書を提出していること。
  2. 厚生年金保険法に規定する適用事業所に該当する全ての営業所について、厚生年金保険法施行規則の規定による届書を提出していること。
  3. 雇用保険法に規定する適用事業の事業所に該当する全ての営業所について、雇用保険法施行規則の規定による届書を提出していること。

これらの要件は、建設業者が社会保障制度に適切に加入し、従業員の権利を保護していることを確認するためのものです。

経営業務の管理責任者の重要性

経営業務の管理責任者の存在は、建設業許可制度の根幹を成す要素です。その重要性は以下の点にあります:

  1. 経営の安定性確保:
    経験豊富な管理責任者の存在は、企業の安定した経営を保証します。建設業は景気変動の影響を受けやすい業種であり、長期的な視点での経営判断が求められます。
  2. 法令遵守の徹底:
    建設業は多くの法規制に従う必要があります。管理責任者は、これらの法令を熟知し、確実に遵守する体制を整える責任があります。
  3. 品質と安全性の確保:
    適切な経営管理は、建設工事の品質向上と安全性確保につながります。管理責任者は、技術者の適正配置や安全管理体制の構築に責任を持ちます。
  4. 信用力の向上:
    経験豊富な管理責任者の存在は、取引先や金融機関からの信用力向上につながります。これは、新規受注や資金調達の際に大きな利点となります。
  5. 人材育成と技術継承:
    管理責任者は、次世代の経営者や技術者の育成にも重要な役割を果たします。建設業の持続的発展には、技術と経営ノウハウの継承が不可欠です。

注意点と留意事項

経営業務の管理責任者に関して、以下の点に注意が必要です:

  1. 常勤性の確保:
    管理責任者は、原則として本店等において休日その他勤務を要しない日を除き、一定の計画のもとに毎日所定の時間中、その職務に従事している必要があります。
  2. 他の役職との兼任制限:
    管理責任者は、他社の常勤職員、他の法人の清算人、国または地方公共団体の議会議員との兼任は認められません。これは常勤性に欠けるためです。
  3. 経験年数の計算:
    経験年数は通算可能ですが、複数の業種で重複する期間は二重に計算できません。ただし、とび・土工工事業と解体工事業については、一定の条件下で二重計算が認められます。
  4. 業種の範囲:
    「建設業に関し」という要件は、29業種のいずれの建設業でも認められます。特定の業種に限定されるわけではありません。
  5. 証明の困難性:
    他社での経験も認められますが、証明が困難な場合があります。特に古い経験や解散した会社での経験は、適切な証明書類の入手に注意が必要です。
  6. 非常勤役員の扱い:
    非常勤役員の経験については、都道府県によって判断が異なる場合があります。申請前に所管の行政庁に確認することが望ましいでしょう。

経営業務の管理責任者の要件は、建設業許可制度の中核を成す重要な要素です。この要件を満たすことで、建設業者の経営能力と信頼性が担保され、健全な建設市場の形成に寄与します。申請者は、これらの要件を十分に理解し、適切な人材を配置することで、円滑な許可取得と事業運営を実現することができます。

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