建設業許可における「誠実性」は、建設業を営むうえで非常に重要な要件の一つです。建設会社を選ぶ側のお客様目線で考えても、「信頼できる会社かどうか」は大きな判断材料になります。この記事では、新入社員の方にもわかりやすく具体例を交えながら、誠実性のポイントを解説していきます。
誠実性の定義と重要性
誠実性とは、簡単に言えば「嘘をつかない」「ルールを守る」「約束を守る」ということです。建設業では、法律を遵守し、適切に業務を行うことが求められます。
家を建てる人の立場で考えてみましょう。
大切な貯金を使って、夢のマイホームを建てようとするとき、建設会社に求めることは「信頼できる会社」かどうかではないでしょうか。
建設業許可における誠実性は、まさにその「信頼性」を担保するものなのです。
誠実性が求められる理由
- 長期の取引
建設工事は着工から完成まで長期間にわたる場合が多く、途中で不誠実な対応があると大きなトラブルに発展しかねません。 - 高額な取引
一件あたりの契約金額が非常に高額になることがあるため、会社の信用力や誠実性が重要となります。 - 前払いの慣習
工事の着手前に一部の代金を前払いすることが一般的であるため、金銭面の信頼が欠かせません。 - 安全性の重要性
建設工事は人々の生活に直接関わるものであり、万が一の事故や手抜き工事は大きな被害につながります。
事例:新入社員Aさんの住宅建設プロジェクト
- 予算:3,000万円
- 工期:6ヶ月
- 着工前に1,000万円の前払い
もし、この会社が誠実でなかったら、お金を持ち逃げされたり、手抜き工事をされたりする可能性もあります。だからこそ、建設業許可では誠実性を厳しくチェックするのです。
誠実性が求められる対象者
法人の場合は、法人自体だけでなく、取締役や執行役、相談役・顧問、主要株主(議決権の5%以上を保有する者)、支配人や支店長などの「政令で定める使用人」も含まれます。
個人の場合は、個人事業主本人と支配人が対象となります。
事例:建設会社「誠実建設株式会社」
- 社長:山田太郎さん
- 専務取締役:鈴木花子さん
- 顧問:佐藤次郎さん
- 大阪支店長:田中三郎さん
このように、会社の代表から顧問・支店長に至るまで、全員が「誠実性」の審査対象です。一人でも問題があれば、会社全体の許可に影響が出る可能性があります。
不正・不誠実な行為の定義
建設業許可における不正・不誠実な行為は、大きく以下の2つに分けられます。
- 不正な行為
- 請負契約の締結や履行時における詐欺、脅迫、横領、文書偽造など法律違反行為
- 不誠実な行為
- 工事内容・工期・不可抗力による損害負担に関する契約違反
不正な行為の例
- 詐欺的行為
安価な材料を使っているにもかかわらず、高品質な材料を使ったと偽り、過大な代金を請求する。 - 脅迫行為
工期が遅れそうなときに「工期を守らないと二度と仕事を出さない」など、下請け業者を脅す。 - 横領
資材購入のために預かった資金を私的に流用する。
不誠実な行為の例
- 工事内容に関する契約違反
契約では「耐震等級3」と記載しているにもかかわらず、実際には耐震等級2の施工しか行わない。 - 工期に関する契約違反
約束した納期を大幅に遅延させる。 - 不可抗力による損害負担に関する契約違反
台風などの天災が原因で工事が遅れたのに、一方的に追加費用を請求する。
誠実性がないと判断される場合
- 建築士法・宅地建物取引業法などで不正や不誠実な行為により免許等の取消処分を受け、その処分の日から5年を経過していない場合
- 暴力団の構成員である場合
- 暴力団により実質的な経営上の支配が行われている場合
事例1:免許取消処分
過去に構造計算書の偽造で建築士免許を取り消された人が、取消処分から5年未満で建設業許可の役員に就こうとする場合、誠実性なしと判断される可能性があります。
事例2:暴力団関係
会社の社長が暴力団組長であることが判明した場合、その会社は誠実性なしとみなされ、許可が取り消されることになります。
誠実性の確認方法
誠実性の確認は、以下のような方法で行われます。
- 申請者の提出書類による確認
- 行政機関による調査
- 必要に応じた警察等への照会
新規の建設業許可申請時には、暴力団員でないことを誓約する誓約書、身分証明書や登記されていないことの証明書などの提出が求められます。これらを通じて申請者の誠実性が確認されるのです。
誠実性維持の重要性
建設業許可を取得した後も、誠実性を維持し続けることが非常に重要です。不誠実な行為が発覚した場合、以下のようなリスクがあります。
- 建設業許可の取り消し
- 営業停止処分
- 指名停止(公共工事への入札参加資格の停止)
- 社会的信用の失墜
- 民事訴訟や刑事告発のリスク
事例:大手ゼネコン「Z建設」の架空発注事件
- 架空の工事発注で利益を水増し
- 許可の一部取り消しや営業停止処分、指名停止処分
- 株価の大幅下落、関係者の刑事告発
このように、誠実性を欠く行為は会社に甚大な影響を及ぼすことがあります。
誠実性を保つための取り組み
- コンプライアンス教育の徹底
定期的な研修や勉強会で法令遵守の大切さを学ぶ。 - 内部通報制度の整備
不正や不誠実な行為を発見したときに、安全に報告できる仕組みをつくる。 - 透明性の高い経営
経営情報を適切に開示し、ステークホルダーの信頼を得る。 - 品質管理の徹底
手抜き工事などが起こらないよう、厳格な品質管理体制を整える。 - 契約書の適切な管理
契約内容を十分に理解し、誠実に履行する。疑問があれば上司や法務部門に相談する。
事例:新入社員Fさんの場合
現場で先輩から「この材料、少し品質が悪いけど、誰も気づかないから使ってしまおう」と言われたとき、Fさんは勇気を出して「契約書どおりの品質を守るべきです」と進言したり、内部通報制度を利用したりすることが大切です。
まとめ
建設業許可における誠実性は、単なる要件の一つではなく、建設業界全体の信頼性を支える重要な基盤です。
- お客様の安全と満足を守る
- 会社の信頼と発展に貢献する
- 建設業界全体の健全性を維持する
これらを実現するためにも、新入社員をはじめとする全ての社員が「誠実に仕事をする」ことを常に意識し行動することが大切です。一人ひとりの誠実性の積み重ねが、建設業界の信頼を支え、社会の発展に貢献する力となるのです。ぜひ、日々の業務の中で誠実性を意識して取り組んでください。