
2020年施行の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)以降、
部下への指導を控える方が多い様です。
傷つけないように、成長に必要な指導をしない。
「残業させない」「負担をかけると悪い」と判断し、簡単な仕事しか振らない。
責任ある仕事をさせない。
いわゆる上司がハラスメントを怖がるばかりに
部下に過剰な配慮をして、
成長のチャンスや、やりがいを奪ってしまう状態のことを、
ホワイトハラスメントというようです。
私は、本当の優しさというのは、何だろうと、
よく考えます。
マイク・タイソンと名トレーナー・カス・ダマトとの関係


歴史上で最も優れたボクサーを一人あげるとするなら、
必ず名前が挙がるのがマイク・タイソンです。
ボクシングをきっかけに、
少年院で更生を始めたマイク・タイソンにとって、
カス・ダマトは、日本語でいうならば鬼コーチでした。
毎朝5時に起床、25キロのおもりを背負った5キロのランニング。
修行僧のような生活をおくらせ、
友人との遊びや夜更かしは、一切禁止されました。
食生活も徹底しています。
オートミール、ステーキ、パスタ、フルーツジュースといった、
固定メニューを毎日同じ時間に、摂取することを決められました。
さらには毎晩、マイク・タイソンと2人で、
ボクシングの映像を見ながら、何時間も、
精神力、恐怖心の克服、人格の磨き上げについての議論が行われました。
今、このようなことをもし日本で行おうというものなら、
パワハラ大反対と、大炎上していることでしょう。
しかし理解していただきたいのは、
カス・ダマトは、決してタイソンを、
自分のボクシングの道具と見ていなかったことです。
かれは、法的保護者となり、事実上の父親代わりとして、
亡くなるまで懸命にタイソンに愛情を注ぎました。
のちに、法的にも養子に迎え入れました。
タイソンも、本当の父親、人生の師と深く慕い続けています。
何より、ダマトが指導していた時のタイソンは
誰も勝つことができない最強のボクサーでした。
一流のかたは、誰もがその人なりのダマトを持っている

私がお見受けするところ、
一流の方は、誰もがその人なりのカスダマトのような存在を
もたれていると思います。
ビジネスマンであれ、料理人の方であれ、スポーツ選手であれ、芸術家であれ。
一流の世界というのはそんなに甘いものではありません。
厳しい厳しい修業の先に、一流の世界は初めて開かれると思います。
その世界に行き着く時に、必ず本当の優しさを持って、
自分の成長を願い、厳しいことばをかけてくれる、
そういう、その人なりのカス・ダマトがいらっしゃるように思います。
婦人の仁

その対局に位置するのが、「婦人の仁」です。
「婦人の仁(ふじんのじん)」とは、ひと言でいえば
「目の前の人への小さな優しさはあるのに、
本当に大事な場面で必要な思いやりがないこと」です。
見た目は優しくても、結果的に相手のためにならない
「浅い情け」を行う人を指します。
語源


この言葉は、中国の歴史書『史記』に出てくる言葉です。
漢の名将・韓信が、ライバルである項羽の人柄を、
劉邦に説明したときに使いました。
項羽は、部下に対してとても親身でした。
言葉づかいは穏やかで、病気の兵士がいれば涙を流し、
自分の食べ物や飲み物を分け与えるほどでした。
ところが、部下が手柄を立てて、
領地や爵位という「正式な恩賞」を与えるべき段になると、
どうしても手放すことができません。
授けるための官印を手の中でいじり回し、
角がすり減ってしまうほど迷った末に、結局渡さなかったといいます。
韓信はこれを「婦人の仁」と評しました。
部下が本当に求めていたのは、
涙や食事よりも「働きを正当に評価し、報いてくれること」だったのです。
結果として人心は離れ、項羽は天下を失いました。
身近な例に置き換えると

たとえば、会社の経営者が社員にいつも声をかけ、
差し入れもして、とても感じがよい。
けれども、成果を出した社員の昇給や昇進になると渋ってしまう。
あるいは、情に流されて厳しい判断を先送りし、
かえって会社全体を苦しくしてしまう。
こうした状態が、まさに「婦人の仁」にあたります。
本当の優しさとは、その場の気持ちよさだけではなく、
相手の将来まで考えて、ときには痛みを伴う判断もできることだ、
と私は思います。
そうした意味でホワイトハラスメントとは、
婦人の仁の最たるものだと、私は思います。
私は、古いタイプの人間かもしれません。
真の優しさとは、決して婦人の仁ではなく、
マイクタイソンを育てた、カスダマトのような、
厳しくもあたたかい愛、これこそが、本当の優しさだと信じています。
また、難しいかもしれませんが、
職員には、是非分かってほしいと思います。


