
作家の東野圭吾さんが、お亡くなりになりました。
令和8年7月23日、68歳でした。
あまりにも、突然の報せでした。
今日は、私が死ぬまで忘れないと
思っている一行の話を、書きます。
東野さんの著書が、私にくださった一行です。
忘れられない一行
7月27日、講談社の発表として、
報道各社が、訃報を伝えました。
ご病気は、大腸がんだったそうです。
じつをいうと私は、東野さんの本を
ぜんぶ読んだわけでは、ありません。
それでも、胸に痛烈に残っている
言葉があります。
人は時に、健気に生きているだけで、
誰かを救っていることがある。
―『容疑者Xの献身』(東野圭吾 著/文藝春秋)
『容疑者Xの献身』の中の、言葉です。
第134回の直木賞を受賞した、
東野さんの代表作の、ひとつです。
この一行に、はじめて出会ったとき、
心底考えさせられました。
この一行が生まれた場面を、
簡単に説明します。
隣人の挨拶が、彼の命を救った
まず、あらすじを文藝春秋さんの
公式サイトから、お借りします。
天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、
一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。
彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、
2人を救うため完全犯罪を企てる。
だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、
その謎に挑むことになる。
ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。
― 文藝春秋 公式サイト『容疑者Xの献身』(文春文庫)内容紹介より
主人公は、石神という数学者です。
天才なのに、不器用で世渡りが下手。
報われない日々を、送っています。
彼は、自分の置かれた環境に絶望し、
自ら命を絶とうと、していました。
そのとき、玄関のチャイムが鳴ります。
隣に越してきた、花岡靖子親子が、
引越の挨拶に、訪ねてきたのです。
それをきっかけに、彼は死ぬのを、
思いとどまりました。
やがて彼は、親子がかかえてしまった
重い罪を、かばう側にまわります。
自分も、罪を重ねてしまうほどに。
けれど彼は、見返りを求めません。
無償の愛情を、注ぎつづけます。
彼は、彼女と家族になろうという下心は、
ゆめゆめ、持ち合わせていません。
むしろ、彼女にふさわしい再婚相手を、
引き合わせようとするほどです。
なぜ、そこまでできるのでしょうか。
親子が、懸命に毎日を生きる姿。
それこそが、彼の生きがいであり、
生きる支えに、なっていたからです。
ただ、健気に生きる親子がそこにいる。
それだけで、彼は幸せだったのです。

世界を見る目が、変わりました
この一行に出会ってから、私は、
世界を見る目が、変わりました。
たとえば、この夏の猛暑の中でも、
懸命に働かれる方が、おられます。
交通整理の方や、宅配便の方や、
工事現場で汗を流す方々です。
毎日を、懸命に健気(けなげ)に、
生きて、いらっしゃいます。
そういうお姿を、見かけるたびにこう思います。
この方たちが、世界を回してくださっているのだ、
というありがたい気持ち。
自分もがんばらないと、という
励まされる気持ち。
これらが、自然と湧いてきます。

逆に言えば、こうも思います。
人を、容姿の美醜で判断する人。
人を、年収の多寡で判断する人。
人を、成功か不成功かで判断する人。
人を、地位や立場で判断する人。
人を、能力で判断する人。
健気に働く方を、小馬鹿にし、嘲笑する人を、
私は、尊敬しないと決めています。
世界中の多くの方が、今日一日を、
一生懸命に、生きていらっしゃいます。
それだけで、とても尊いことであり、
私自身も勇気づけられます。

過去の自分との決別
かつての私は、成功することや、
お金をたくさん稼ぐことこそが、
人を幸せにする術(すべ)だと思っていました。
人並み外れた価値をもたらしてこそ、
ようやく誰かを幸せにできるのだと。
人並み外れたパフォーマンスこそが、
人を勇気づけるのだと。
でも、そうじゃないことに気付かされました。
日々、その人が、健気に生きる。
それだけで、もう十分だと。
それだけで、十分に価値があることだと。
どんな職業であろうとも、
どんな家庭環境であろうとも、
どんな年収であろうとも、
どんな学歴であろうとも、
どんな性別であろうとも、
どんな年齢であろうとも、
どんな国籍であろうとも、
そんなことは、どうでもいい。
あなたがそこにいて、
あなたが健気に生きている
それだけで、十分誰かを救うことができる。
いや、もう誰かの救いになっている。

だから、全ての人を等しく、
大切に、丁寧に取り扱う必要がある。
このことは、私の事務所の社是に
まっすぐつながっています。
弊所は、絶対に絶対に絶対に、
人を、雑に扱わない。
三つ重ねた「絶対」は、本気の証です。
この社是の根幹には、東野圭吾さんの、
人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。
の一文があります。
だから最後に、この記事を読んでいる
あなたに、お伝えしたいです。
今日を、健気に生きているあなたも、
もう誰かを、救っているかもしれません。
石神が、あの親子に救われたように。
まとめ:一行が、人生を変える
つくづく、作家とはすごい仕事です。
たった一行で、読んだ人の人生を、
変えてしまいます。
もっと、東野さんの本を読みたかった。
心から残念に思うとともに、心から、
感謝を申し上げたいと思います。
8月5日に、東野さんの最新刊が
刊行されると、報じられています。
『永遠の記憶』という長編小説です。
『容疑者Xの献身』と同じシリーズの、
最後の一冊に、なるのだそうです。
とても楽しみです。
最後にこの場を借りて、言わせてください。
東野先生、本当にありがとうございました!


